手前に畑、奥に住宅地とマンションが並ぶ、都市のふちの農地。

Peri-urban agriculture

都市近郊農業Farming at the edge of the city

都市近郊農業とは、「近い」を資源にする農業です。 What peri-urban agriculture actually means

都市近郊農業とは、大都市の周辺で営まれる農業のことです。教科書的には、大消費地に近いという条件を活かして、鮮度の落ちやすい野菜・果物・花などを集約的につくる農業を指します。輸送に時間がかからず、輸送費も少なくて済む。採れたその日に食卓へ届けられる——この「近さ」そのものが生産条件になっている点が、他の農業と決定的に違います。

ただ、実際に都市のふちで農業をしていると、その説明だけでは足りないことのほうが多くあります。以下は、大阪市内から三十分の畑で米と野菜をつくっている側から見た、都市近郊農業の定義と、利点と、あまり語られない側面です。

執筆・更新:株式会社アグリズム摂津(大阪府摂津市鳥飼八町)。数字の出典はページ末尾に記載しています。

Two words, often confused

「都市農業」と都市近郊農業」の違い。 Urban farming and peri-urban farming

よく混ざって使われますが、出どころの違う言葉です。片方は法律の用語で、もう片方は立地の呼び名です。

都市農業
都市農業振興基本法(平成27年法律第14号)が「都市及びその周辺の地域において行われる農業」と定めた、法律上の用語です。この法律と、これに基づく都市農業振興基本計画(平成28年閣議決定)によって、市街化区域内の農地は「宅地化すべきもの」から「あるべきもの」へと位置づけが変わりました。話題の中心は、市街化区域のなかの農地、いわゆる生産緑地になります。
都市近郊農業(近郊農業)
大消費地の近くで営まれる農業。地理的な立地の呼び名で、法律の定義ではありません。鮮度が求められる品目を、消費地との距離の短さを活かして生産する経営の型を指します。市街化調整区域にある農地も含みます。
重なるところ
どちらも「消費者がすぐそこにいる」という条件を共有します。売り先が近い、体験や教育の場になりやすい、緑地や防災空地としての価値がある——この三点は、呼び名にかかわらず共通します。
私たちの場合
畑があるのは市街化調整区域なので、法律上の「都市農業」の中心的な対象ではありません。それでも大阪市内から三十分、住宅と工場のすぐ隣です。実態としては、まぎれもなく都市近郊農業です。

Advantages

近いことの、強みWhat proximity buys you

採った日に、届く

市場を経由すると、畑から食卓まで数日かかります。市内の飲食店へ直接お届けすれば、朝に採ったものがその日の営業で使われます。鮮度の落ちやすい野菜ほど、この差がそのまま味の差になります。

売り先を自分で持てる

消費者がすぐそこにいるので、直売・直卸・オンライン販売という選択肢が現実的です。市場に出せば流通は楽ですが、「どこの誰が作ったか」は薄れます。近ければ、値決めも品目も自分たちで決められます。

来てもらえる

仕事帰りでも、休日の午前だけでも通える距離。農業体験、研修、農福連携。人を迎える取り組みは、遠い産地では成立しにくく、都市の近くだからこそ成り立ちます。

規格外が捨てものにならない

傷や形の乱れで市場に出せない野菜も、近くに使ってくれる厨房があれば売り物になります。刻んでしまえば味は変わりません。売り先があれば、捨てなくていい。近さは、廃棄を減らす条件でもあります。

The other half

利点の裏側に、もう半分がある。 The costs nobody lists

面積が集まらない。都市の近くでは、農地が住宅と工場のあいだに分断されています。一枚一枚が小さく、離れている。機械を動かすたびに移動が発生し、効率はどうしても落ちます。専業として米で生計を立てるには二十万平方メートルほどの田が要りますが、その面積をまとめて借りられる場所は、都市の近くにはほとんど残っていません。

土地が高い。宅地に転用できる場所では、農地として持ち続けること自体が経済的な選択になりません。相続のたびに土地が動き、そのたびに畑が減っていきます。市街化区域内の農地が、この三十年で半分以下になったのはそのためです。

隣に人が住んでいる。農薬の飛散、朝の機械の音、堆肥のにおい。畑の作業は、住宅と隣り合っているというだけで気を使う仕事になります。近さは利点であると同時に、制約でもあります。

そして、担い手がいない。大阪府の基幹的農業従事者は、65歳以上が約74%を占めます。近さが売り先を作ってくれても、耕す人がいなければ畑は終わります。都市近郊農業のいちばん大きな課題は、市場でも技術でもなく、ここにあります。

一面の稲の向こうに工場と送電鉄塔が並ぶ地平。

In Osaka

大阪は、日本でいちばん都市に近い農業をしています。 Numbers from the most urban farming prefecture

大阪府の耕地面積は全国でも最小級です。それでも、その狭い農地の四分の一が市街地のなかにあります。都市近郊農業を数字で見るなら、大阪ほどわかりやすい例はありません。

耕地面積
12,400ha
田8,640ha・畑3,760ha/令和3年
市街化区域内の農地
3,158ha
耕地のおよそ4分の1/令和3年度末
うち生産緑地
1,841ha
令和3年度末
基幹的農業従事者
65歳以上が約74%
令和2年

農地の四分の一が市街地のなかにあるということは、その四分の一が、いつでも宅地になりうる場所に立っているということでもあります。生産緑地の制度は、そこに「営農を続ける」という約束を置いて時間を稼いでいる仕組みです。都市近郊農業の危うさと粘り強さは、どちらもこの数字に表れています。

府全体の耕地がどう減ってきたか、どんな品目が全国上位に立っているかは、大阪府の農業のページにまとめました。

A case

鳥飼八町という、ひとつの実例。 138 hectares, and a line on a map

私たちの畑は、大阪府摂津市鳥飼八町にあります。摂津市の面積は14.87平方キロメートル。そのうち市街化調整区域——つまり建物を建てられず、農地が農地のまま残る区域——はわずか138ヘクタールで、その区域とは鳥飼八町と淀川のことです。川を除けば、この市の農地はほぼ一か所に集まっていることになります。

高架があり、倉庫があり、その向こうにマンションが建っています。それでもここは、なにわの伝統野菜鳥飼なす」の原産地です。大阪市内から三十分の場所に、これだけまとまった田畑が残っている例は、日本でもそう多くありません。

制約が、そのまま希少性になっている。都市近郊農業の可能性を考えるとき、私たちがいつも立ち返るのはこの一点です。

摂津市の農業について詳しく

Our answer

都市の近くで、どう続けるかFour things we actually do

面積で勝てないのだから、面積以外で成り立たせるしかありません。私たちが手をつけているのは、次の四つです。

  1. 買う肥料を減らす

    秋にレンゲを蒔いて緑肥にし、稲刈りで出た籾殻を堆肥にして土へ返す。田のなかで栄養がめぐる形をつくれば、外から買い足す量は減っていきます。この堆肥を三年入れた畑は、土質がはっきり変わりました。狭い農地でも成り立たせるには、まず費用の側から削るのが確実です。米づくりと循環を見る

  2. 売り先を自分で持つ

    オンラインの食材ECサイト、市内飲食店への直接配送、準備中の畑の直売所。市場を通さない経路を増やすほど、近さが値段に反映されます。規格外の実も、使ってくれる厨房があれば捨てずに済みます。買う・食べるを見る

  3. 人を迎える

    農業学校の卒業生や就農希望者を毎年二〜三名。就労継続支援B型事業所との農福連携。そして農業体験の場づくり。畑のまわりにいる人の数だけ、農業が続く理由が増えます。近いということは、来てもらいやすいということです。人を迎える取り組みを見る

  4. 機械を地域で回す

    JA北大阪から農作業を受託し、耕うんや田植えを請け負っています。この地域は兼業農家が多く、機械を持つ人も動かせる人も減り続けています。一台の機械が一枚の田しか耕さないなら、都市の近くで農業は残りません。受託は、機械を地域の設備として使うための仕事です。

FAQ

都市近郊農業について、よくある質問Frequently asked

都市近郊農業とは何ですか。
大都市の周辺で営まれる農業のことです。大消費地に近いという立地を活かし、鮮度の落ちやすい野菜・果物・花などを集約的に生産する経営の型を指します。輸送時間と輸送費が小さく、採れたその日のうちに消費地へ届けられることが最大の特徴です。近郊農業とも呼ばれます。
都市農業と都市近郊農業はどう違いますか。
都市農業は法律上の用語で、都市農業振興基本法(平成27年法律第14号)が「都市及びその周辺の地域において行われる農業」と定義しています。この法律と、これに基づく都市農業振興基本計画(平成28年閣議決定)により、市街化区域内の農地は「宅地化すべきもの」から「あるべきもの」へ位置づけが変わりました。一方、都市近郊農業は立地の呼び名で、法律の定義ではありません。市街化調整区域にある農地も含みます。実務上は重なる部分が多い言葉です。
都市近郊農業のメリットは何ですか。
採った日のうちに消費地へ届けられること、直売や飲食店への直卸など売り先を自分で持てること、消費者に来てもらいやすく農業体験や研修の場をつくれること、規格外の野菜にも売り先を見つけやすいことです。加えて、農地そのものが都市の緑地・防災空地として機能します。
都市近郊農業の課題は何ですか。
農地が住宅や工場に分断されて一枚あたりが小さく、機械の効率が上がらないこと。地価が高く、相続のたびに農地が減ること。住宅が隣接するため農薬・騒音・においに気を使うこと。そして最大の課題は担い手です。大阪府の基幹的農業従事者は65歳以上が約74%を占めます。
大阪の都市近郊農業はどのような規模ですか。
大阪府の耕地面積は令和3年時点で田8,640ヘクタール(全国で5番目に小さい)、畑3,760ヘクタール(全国で3番目に小さい)です。市街化区域内の農地面積は3,158ヘクタール、そのうち生産緑地に指定されているのが1,841ヘクタールです(いずれも令和3年度末)。耕地面積は平成2年の18,080ヘクタールから三十年で三割減りました。
都市近郊で農業を始めることはできますか。
できます。大阪府内の新規就農者は平成23年の14人から令和3年には57人まで増えています。ただし農地の貸借には農地法第3条の許可が必要で、まとまった面積を確保するのは容易ではありません。当社では農業学校の卒業生や大阪府農政室の紹介で就農を学びたい方を毎年二〜三名受け入れています。まずは市民農園や研修から始めることをお勧めしています。

出典・参考

Visit

都市のとなりの畑を、見にきてください。

大阪市内から三十分。研修も、仕入れも、見学も。